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前田勝洋 教育を拓くA
「見つけ学習」を継続して実践している小学校

 1 6年前のY小学校との出会い
 2 みんなで「見つけ学習」を実践することに
 3 模擬授業で「見つけ学習」の進め方を学ぶ
 4 継続的な地道な授業公開で学ぶ


1 6年前のY小学校との出会い

 もうずいぶん前のことになります。その学校に私の若いころからの友人であったI先生が,校長として赴任してこられました。隣りの市からの異動ということで,「なかなかこの市の教育行政や職場の環境に馴染めません」と戸惑いを感じておられました。ただ,職場は「若い先生が多くて活気があります。それはとてもうれしいことです」と言われました。「年輩の先生には,私もあまり期待していないというか,もう教師としての生き方や授業の仕方も固まっています。それに比べて若い先生は,未熟ではあるけれど,授業がうまくなりたい,学級経営をしっかりやりたい,と意気に燃えています」と。

 そんなことで,私にも声をかけてくださって,その学校を訪問することになりました。私にとっても,若い教師との出会いは新鮮です。そんなことで,進んで引き受けてお邪魔することにしました。

 私は,若い先生に難しいというか,非日常的な授業論をあれこれ伝授するよりも,「今すぐ役立つ,シンプルでわかりやすい授業法を一緒に考えていきましょう」と呼びかけました。そして,その学校での実践活動を支援していくことになりました。それが,私的に言うと「見つけ学習」で日常的な授業をしていくというものでした。

2 みんなで「見つけ学習」を実践することに

 「見つけ学習」というと,何か特別な学習の仕方なのかと思われるかもしれません。でも,それはそんなに難しい理論に支えられた授業方法ではありません。たとえば,2年生の国語の教材に「ビーバーの大工事」という説明文があります。2年生の子どもたちが,本格的に長い文章に接する初めての学習です。

 ビーバーが,森の中で,大きな木を歯で切り刻んで,ダムを作っていく過程が,写真を添えて掲載されているのです。ビーバーという動物へのかわいい雰囲気と,その一方で大きな木を切り倒してダムを作っていくそのエネルギッシュな活動に,たいへん心打たれる話に構成されています。

 私は,この教材文をY小学校の先生方と一緒になって,教材研究をしていくことにしました。その教材研究のやり方も,いわゆる教師が指導書をひも解いてあれこれ意見を言い合うのではなくて,私(前田)が授業者になり,Y小学校の先生方が,子どもになり,模擬授業の形で行うという形式をとりました。

授業は45分ですから,45分で行うことを原則にして,行いました。
その授業の仕方を学ぶ会で行った模擬授業を一部再現してみましょう。

3 模擬授業で「見つけ学習」の進め方を学ぶ

(1)「予想する」ことを学ぶ

 まずは私が黒板に「ビーバーの大工事」と表題を書きます。
 「さあ,みなさん,このビーバーの大工事という題から,どんなお話が書いてあるか予想してみましょう」と呼びかけます。「そのときに,子どもたちに,ただ予想してみましょうでは,何をどう考えていったらいいかわかりませんよね。そこで『たぶん』とか『きっと』を使った『たぶん,こうなんじゃないか』『きっとこんなことだ』といういう言い方を子どもに示して,予想させましょう。さあ,みなさんもやってみてください」とまあ,こんな調子で,授業開始になります。
 先生方は,子どもの椅子に座りながら,ニコニコして「予想」をします。

 「たぶん,工事と書いてあるから,何か作っている話だと思います」「工事に大工事と大がついているから,きっと大きなものをつくっているのだと思います」そんな予想が次々に出されて行きます。先生方もたのしそうです。
それは私の意図でもあります。たのしく実感して学びとってほしいのですね。

(2)「音読する」ことを学ぶ

 そして,本文を読むのです。この場合,音読をするのですね。まずは,教師が範読をします。子どもたちである先生方には,「指読み」と言って,授業者である私が読んでいる文を人差し指でたどっていく活動をしてもらいます。こうすることによって,耳で聴いて目でたどる読み方をしっかり会得します。

 次に子ども全員が,音読をします。全員起立して音読します。でもやってみると,先生方の声が小さい。それにみんな声を揃えて読んでいます。「はい,やり直しですね。まずは,もっと大きな声で読みましょう。それにみんなで声を揃えて読むのはやめましょう。自分で自分の読みをしていきましょう。これをバラバラ読みと言います」先生方は苦笑しながらも真面目に大きな声で,読み直します。中には体を動かしながら,表情豊かに読む先生もいます。「そうそうそのやり方がいいですよ」と私は机間指導をしながら,ほめたたえます。

 この音読する時間は,「読み終えた人から,座ってください」と言いません。ベルタイマーで,今から7分間ベルが鳴るまで,しっかり読みましょう」と言います。読み終えた人から座ってくださいという指示は,子どもたちに急ぐ気持ちを起こさせて,読み方が「新幹線読み」になりますと先生方に教えます。しっかり文字を読まないで,急いで情景や中身を吟味する読みにならないからです。ていねいに読む読み方を教えていくことが大事なことだと,先生方にも納得してもらったことでした。


(3)「すごいところ見つけ」を学ぶ

 それを終えたところで,「それでは,初めの場面で,文章と写真から,あなたがたが,自分で『すごいな!』と思ったところに,サイドラインを引いてもらいます。すごいなと思ったところでしたら,どこでもいいのですが,ほんとうにすごいな! と思ったところを三か所は選んでくださいね。時間は5分で行います」と言いました。ここでもベルタイマーの登場です。時間を上手に使える先生,子どもたちになってほしいからです。

 ちょっとここで,「すごい!」というところを見つけることについて,考えてみましょう。「すごい」ということばは,何かを強めている,何かに驚いたとき,何かに感動したとき,何かに不思議さを感じたときに発することばですね。すごくかなしい,すごく強い,すごく元気だ,すごくがんばる,などなど,強める働きをすることばです。

 この「ビーバーの大工事」の文章と写真の中で,すごい!と思ったところを見つけることは,そのままその子どもの心に強くひびいたところであり,こだわったところです。まずは,そういうことばに敏感になる子どもを育てることを,Y小学校の先生方に意識してもらったことでした。

さまざまに表現されている文章から,まさにキーワードになることばを「見つける」,光ることばを「見つける」ことこそが,「読みとりの第一歩」だと意識してもらいます。

 その活動を終えたところで,「それではサイドラインを引いた三か所の中で,一番強く思ったところについて,自分はその文章や写真を見て,どう思ったか書いてごらんなさい」と指示します。

Y小学校の先生に私は言います。「まちがってはいけませんよ。そこにサイドラインを引いたわけを書くのではありませんよ。なぜそこに線を引いたかという理由を書くのではありませんよ。引いたところから,自分はどんなことを思ったか書くのです。それこそが,自分なりの読解力ですからね」と念押しをします。ここでもまたまたベルタイマーで,3分でやってもらいます。

 先生方の中には,3分では短いのではないか,時間のかかる子どもには,中途半端になると疑問が出されました。でも私は,「全部書けなくてもいいのですね。とにかく決められた時間を有効に使って,『やろう』とがんばる子どもを称賛することです。中途半端でも頑張った子どもは大いにほめましょう,みとめましょう」と言います。

(4)みんなで学び合う時間を学ぶ

 さあ、ここまで学習が進んでくると,それぞれの「見つけ学習」が行われたことになります。そのひとり読みをもとにして,今度は,みんなで学び合うのですね。
 さっそく机の配置をコの字型にします。「移動は一分くらいでやりますよ。音を立てません」と私が先生方に言います。みんなさっと動かして,コの字型になります。お互いに前向きであった机をコの字にしたことによって,みんなの顔が見渡せるようになります。「学び合い」は「話し合い,聴き合い」だよという意識を育てるためには,このような座席配置が大事です。

 「さあ,それでは,今の場面で,みなさんが,すごいなと思ったところをお話ししてください」と授業者である私が言います。でも先生方はなかなか挙手しません。「さあ,子どもの気持ちになってがんばるのですよ」と私。そろそろと先生方は挙手します。「ここで大事なことは,2,3人の子どもが挙手したらすぐに指名することをしないことです。みんなが授業に参加することが大事なことですから,じっと待つことです。授業というバスに子どもたちが乗り込むまで待つことです」先生方は真面目な顔つきになりながら,ついに先生方全員挙手しました。さあ出発です。

 「ぼくは,ガリガリというところに線を引きました。ガリガリだから,すごい力が入っていると思いました」と最初の発言者であるE先生が言いました。私は用意しておいた「ガリガリ」の短冊シートを黒板に添付して,「すごい力」と黄色のチョークで板書しました。
 Y小学校ではハンドサインを使っていますから,先生方にも使ってもらいます。私は付け足し発言を出しているP先生に指名しました。「私もガリガリ……」とP先生が言うのを差し止めて,「P先生,発言するときに,先生は,E先生に付け足すのですから,『私はE先生に付け足して,……』と言う言い方をしてください。なんでこんなことを言うかわかりますか?」とたずねます。
 「これは「E先生の発言をちゃんと聴いていたよ」ということになるのですよね。発言するというのは,ただ自分の考えを発表することであってはなりません。むしろ他人の意見を聴いていることによって,学びを深める体験を持たせることです。だから,同じような意見だったら,『誰々さんと同じで……』でいいし,反対のような,ずれているような意見だったら『誰々さんとちょっと違って』と発言する方法を教えましょう」
 先生方は,ああそうか,だから発言の仕方を具体的に,子どもたちに教えていかないといけないのだと学んでくれたのでした。

 それからは,それぞれの発言者が別のすごいところを次々に出して行き,付け足し発言も行われていきました。先生方が,子どもの目線になっていることをいつしか忘れて,上気した顔つきで積極的に「見つけ」に挑戦する姿が印象的でした。

(5)授業の終わり方を意識することを学ぶ

 そんなこんなで模擬授業を進めて行きました。そうして授業があと7分くらいになったところで,授業の着陸態勢に入ることを先生方に学んでもらいます。延長授業をしたり,チャイムがなったら,そこで授業を途切れた状態にしてしまったりしないためにも,「授業の終わり方を意識する先生になろう」と私は呼びかけます。

 「さあ,黒板を見てください。みんなで学んだことを私は3色のチョークで書いてみました」「みなさんは,きょうの学習でどんなことを一番学びましたか。ノートに書いてみてください」と授業感想の書き方,学びの振り返り方を先生方に教えます。

 以上,初めてY小学校で私が行った模擬授業について大まかに記してきましたが,いかがだったでしょうか。Y小学校では,その後も社会科,理科の授業における「見つけ学習」の模擬授業をしました。それを受けて先生方は,実際の授業公開で行っていったのです。そんな模擬授業は,若い先生方だけではなくて,ベテランと呼ばれる先生方にも結構違和感なく,積極的に受け入れてもらえて,私としてはたいへんうれしいことでした。

4 継続的な地道な授業公開で学ぶ

 I校長先生が,その学校に勤務されていた3年間は,年間6回程度の授業公開が,若手教師を中心に何度も何度も行われていったのでした。教師たちはお互いの授業を「見て学ぶ」ことに積極的でした。中には,子どもたちを引き連れて,他の学級の授業を参観して,「ぼくたちもおにいちゃんのような授業をしたい」「あのクラスに負けないでがんばりたい」という雰囲気も生まれてきました。

 それは,まさに教室が開かれていくY小学校を象徴する動きであったのです。
 授業公開の教科も,初めのうちは,やはり国語が中心でしたが,次第に社会科,理科,さらには道徳や算数での挑戦も見られて,私の考える「見つけ学習」がきわめて日常的に行われていることになっていったのです。

 また,「見つけ学習の深化」という点で言えば,互いの見つけたことから,さらに深めるいわば「山場」への挑戦をして,質の高い授業に挑戦する教師も出てきました。そうなると,どういう単元構想をしたらいいのか,どういう教材研究で深めたらいいのか……先生方の勢いは止まりません。

 まさに平板な「見つけ学習」ではなくて,一歩も二歩も深まりのある学びが子どもたちとともにできるようになっていったのでした。

 「前田先生の言われる『見つけ学習』は,子どもたちがやり方を覚えると,どんな教科でも応用できて,授業がたいへん活気づいて……とてもこちらとしてもやりやすいです」「話し合い,聴き合いの学習規律や学習方法を一つずつ子どもたちに根気強く教えていくと,授業にリズムが出てきて,子どもたちの授業への参加度も高まってきたように思います」と歓びの声がY小学校から届くようになってきました。私にとって,とてもうれしいことでした。

 ただ,Y小学校のような,どちらかというと大規模校になると年度末の異動で,教師の入れ替わりが10名近くになることもあります。だから,年度初めには,Y小学校の「見つけ学習の仕方」をみんなで確認することをしています。異動してこられた先生の中には,「見つけ学習のイメージ」が,どうもわかりにくくて近寄りがたく,取り入れるのに抵抗感がある教師もいました。そんなとき,ふだんの授業を公開することで授業のイメージを実感してもらうことにしました。

I校長さん曰く「ベテラン教師ほど,抵抗感があって……つまり自分なりにやってきた授業法があるのですね。だから当然のことです。私としては,何が何でもこの方法でやってほしいと押し付けるのではなくて,子どもの学びの姿や,いままでいた先生方の授業を見て実感してくださって……やれるところからやってくださればいいと思っています」と言われるのでした。

 I先生はY小学校に3年間勤務されて異動されていきました。

 私は,「これでY小学校との縁も一段落したなあ」と思っていました。

そんなあるとき,新しく赴任されたN校長さんが,わざわざ電話をしてきてくださって,「これまで,この学校が先生と二人三脚で見つけ学習の手法で,いい成果をあげてこられたとお聴きしています。私としてもいいことはぜひとも継続していきたいですから,これからもよろしくお願いします」と言われるのでした。「N校長先生,先生も校長として新たな気持ちで赴任されて,先生のおもちの中に憧れの学校づくりのイメージがあると思いますから,どうぞ無理をされませんように」そんな私の返すことばを受けてN校長さんは,「私だって,そのことは考えましたが,実際に授業を参観して違和感がありませんし,むしろいいなあと実感しているのですから,無理やりではありません。どうかよろしくお願いします」と言われるのでした。

N校長先生になって,すでに3年間が経過します。速いものです。私は相変わらず,ときどきのお招きをたのしみにしながら,Y小学校の教師たちの実践活動に関わってきています。 


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