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「前田先生の実践のお考えはシンプルで気に入っています」
―達人教師・前田勝洋の学校行脚・その11―

1 研究委嘱校になったR校長さんからの電話
2 研究が始まる前の3月末の学校訪問
3 よーい,ドン!のスタート――「前田先生にだまされてみたい」
4 一途に取り組む教師たちを支える一枚岩の四役
5 授業公開の意味を自覚し「はりきる」教師と子どもたち
6 引き継がれる学校経営

 未曾有の大震災が発生して早や1カ月以上になります。国家の命運がかかる今回の災害は,各地に大きな爪痕を残しました。それにしても思うことは,被災されたみなさま方のことです。多くの親戚縁者を失うばかりか,町全体の壊滅的な被災にもかかわらず,懸命に復旧に向けて立ちあがってみえる状況を思うにつけて,涙があふれるのを禁じ得ません。協力的で沈着冷静な被災者の行動力に,日本人として誇らしく思います。
 今私たちは,日本人として一丸となって,この過酷な試練に立ちあがる覚悟を深くするものです。学校教育に携わるみなさんが,この窮地を大きな教訓にして,新たな市民意識の形成に寄与されんことを切望します。

1 研究委嘱校になったR校長さんからの電話

 「もしもし,前田先生ですね。実は私の学校が来年度から研究委嘱を受けることになりまして……」それは,以前にお逢いしたことのあるR校長さんの声でした。
 「私はずっと以前から,前田先生のお話をお聴きしたり,先生のお書きになった書籍を購読したりしてきました。」「先生のお考えは,実にシンプルで,わかりやすいなと,かねがね思ってきました。だから私なりに消化していままで校内で実践してきましたが,来年度からの研究委嘱を契機に,前田先生にじかに指導助言をいただきたくて,突然電話でしたが,お願いにあがりました」

 それはまだ新しい年も明けたばかりの昼さがりでの電話でした。「どうしても,先生に御承知いただいて……4月早々からご来校いただきたいのです」
 どうやらR校長さんの胸の中には,すでに設計図が描かれているようです。私は,研究委嘱の分野もはっきりわからないままに承諾の意思をお伝えする羽目になったのでした。

 「私も退職まで,あと2年しかありません。だから,最後は自分が信頼している前田先生の指導のもと,私もはじめの一歩から,これまでの学校経営や授業実践を清書するつもりでがんばりますから,どうかよろしくお願いします」
 R校長さんは,お礼を言いながらも,この学校で,授業実践を通じて,子どもたちを育てることに,力を尽くしたい,そのためにぜひともお力添えをいただきたいと何度も何度も言われたのです。

 R先生は,単なる思いつきで,「前田先生に依頼したのではない」ことを強調されました。「先生の本を読んで,これならば,日常的に少し無理すればできる実践だ」「それに何よりも,わが校の実態に合っている」と,私に語られるのです。私としても,そこまで言われて引き下がる理由がありません。「喜んで行きましょう」ということになりました。

2 研究が始まる前の3月末の学校訪問

 それは3月も終わりになる頃,はじめてR校長さんの学校を訪ねました。「R先生,まだ新年度ではないですが,こんな時期から研究委嘱の内容について語り合っていいのですか?」と私。「まったく問題はありません。すでに来年度この学校へ来てくださる先生もすでに,本日集まってもらっていますから」
 R校長さんのなんと手回しのいいことでしょうか。驚きました。

 確かに研究委嘱を受けた学校は,2年間の委嘱期間があっても,なかなか研究テーマも決まらず,日頃の仕事に忙殺されていると,研究の立ち上がりが,ついつい手遅れになってしまうのです。さすがR校長さんは,その点は抜かりがありません。
 「私は日常的なわが校の実践そのものが変わっていかないと,子どもの成長にはつながらないと思います」「打ち上げ花火のように,当日だけを飾る研究会はもういいのです。日頃,誰でも少し頑張れば,やれそうなことを地道に粘り強くやっていく教職員になってほしいのですね。その点で前田先生の実践のお考えはとてもシンプルで……気に入っています。ぜひともよろしくお願いします」

 R校長さんの学校は,どちらかというと小規模校に属する小学校です。10数名の教職員がすでに校長室に勢ぞろいをしていました。目の前にはコーヒーカップとおいしそうなケーキが乗っています。「まずはこのお茶とケーキで前田先生との出会いを祝いたいと思います」教務主任のW先生の音頭でいただくことになりました。
 その場には,給食のおばさんから,事務さん,パートの先生までみなさんがお揃いでした。和やかなケーキでの談笑が,R校長さんの学校との出会いになったのでした。

3 よーい,ドン!のスタート――「前田先生にだまされてみたい」

 子どもたちが登校する以前の3月末にみんなで学級づくりや授業づくりの基本を学ぶ会を立ち上げたR先生の手まわしのよさにも驚きましたが,揃った教職員の和やかなこと,笑いあり,おしゃべりありのたのしい出会いになりました。

 「前田先生の言われることを私たちはたのしみにしているのです。みんなどんな指導もちゃんと受けて立とうと思っているのですよ」「それも子どもが来る前にしっかり学んで,あとでしまった! なんて思わないようにしたいということですね」W教務さんがR先生の考えを受け継ぎながら,話されました。
 「私たちは,前田先生の言われることを信じて実践に取り組むつもりです。つまり……なんていうか,『だまされてみたい』ということでしょうか。ちょっと失礼な言い方ですが」傍から研究主任のS先生の言葉です。
 「だまされてみたい」と言うことばに,みんなはどっと笑いこけました。

 「私は,詐欺師ではありませんから,そんなだますなんておこがましいですが……でもそんなことを言ってくださるなんて,私のような者にとっては,最高の信頼感を感じます。一生懸命にやりたいと思います」とお話をしたことでした。ほんとうに,最初の出会いから,盛り上がりました。

4 一途に取り組む教師たちを支える一枚岩の四役

 R校長さんの学校に行くときは,先生たちがほんとうに真剣なまなざしで見,聴いているのです。だから,こちらも迂闊なことは言えません。真剣に向かい合うことが自然になります。先生方の反応は,「前田先生,それをやってみます。がんばります」「先生の言われることを信じて……だまされてみます」そんな会話に私も,ほっとしながら,精一杯の応援をしたくなるのでした。

 2年目に入ったころから,「だまされてやってみて,こんなにもおもしろくなってきました!」「先生の言われることを,こんなふうにつなげて自分のやり方を試行してみました」それは私の考えを,単なる受け身でとらえている教師集団ではありません。積極的に新たな実践方法を紡ぎ出す教師集団への変身でした。

 私は,この学校が,何でこんなにも前向きになれるのか,とても不思議な気持ちでいました。その秘密が知りたいと私のほうが興味を持ったのです。

 それは,ある意味そんなに難しいことではありませんでした。
とにかく管理職を含む四役の先生方の結束が,「一枚岩」であるということです。いや,一枚岩だけではなくて,四役の先生方が,それぞれの立場で子どもたちや教師とかかわり,「実践経営」をしているのです。

 まずR校長さんは,全校の子どもたちに,「毎月の詩の暗唱」を「指導」しているのです。休み時間になると,詩の暗唱のできた子どもたちは,校長室で校長先生に向かって,暗唱した詩を朗読するのです。1年生から6年生まで,同じ詩です。宮澤賢治あり,金子みすゞあり,坂村眞民あり……で多彩な詩を朗読します。これは,この学校の子どもたちに「自己表現力」をつけることになっています。

 教頭のH先生,教務主任のW先生は,学校全体が円滑に動いているかどうか,目配りを怠りません。

 校務主任のS先生は,研究主任の立場を兼ねています。女性であるだけに,気配りをしながら,教師たちの日常的な授業にかかわっています。学校のホームページを毎日更新するのも,S先生の役目です。

 そんな四役の先生方の動きがあるからこそ,職場の空気はすこぶる「おだやかで温かい」のです。一途にやっているのでしょうが,私が訪問して一度たりとも,先生方の不快感のある雰囲気を感じません。明るい笑い声さえ起きる協議会や茶話会に,私もたいへん不思議な気持ちになりながら,参加していました。

5 授業公開の意味を自覚し「はりきる」教師と子どもたち

 私がこの学校を訪問したのは,4月の入学式,始業式の前でした。そして授業を参観したのは,5月からでした。私が訪問する日には,授業を3つ公開されます。
この学校の教師たちは,授業公開する前に,必ず「前田先生」を子どもたちに紹介してくださるのです。私も子どもたちに,気軽にあいさつをして,授業公開は始まります。

 「授業公開は,みんなだけではなくて,先生も勉強してみんなが賢くなるために,勉強しているのです」ということが,事前に子どもたちに知らせてあります。だから,子どもたちは,授業公開が,自分たちにとって意味のあることだということを自覚しているのです。

 教師もまた同じことです。

 K先生は,毎時間の授業の板書を写真に撮ります。そのノートが「もう今年は4冊目になりました」とニコニコしながら,見せてくれます。そのノートには,板書の写真が貼ってあって,そこには,どんな点で問題があったか,どの点は納得できるか,生かすべき子どもが生かせる授業であったか,その時々にK先生がメモった記録が残されていました。
 「K先生,これは先生の宝物のようなノートですね」私は思わず言ってしまいました。K先生も「ええ,私は体育が専門の教師で,国語の授業を公開することにとても抵抗感がありました。でも,S先生のアドバイスで板書を事前にイメージしながら,授業をすることを日々やってきました。」「今では,授業前に想定した板書と,授業を終えたあとの板書が,どう違っているか,それは何でそうなったのかを思う時,自分の中でとても素直に反省できます」と興味深く話してくれました。

 授業の後の協議会も,とかく助言的な立場でかかわると,どうしても私(前田)の出番は最後になりがちですが,この学校では,どんどん質問や意見が私にも向けられます。
 普通の学校では,「・授業者の反省 ・授業についての質問 ・全体協議 ・助言者の話」という形式を踏んでやります。
 ところが,この学校では,そういうルールはありません。むしろ雑談形式で,どんどん展開して行きます。教師が10名内外であることも,この学校らしいやり方を可能にしていると言えます。話し合いは,意見を言った教師,授業をした教師が納得するまで行われます。

 私は,この学校ではいつも同じ職場の仲間としての悪戦苦闘をします。それが心地よい語り合い学び合いになっていました。

6 引き継がれる学校経営

 R校長先生の願いを込めた研究発表会は,きわめて成功裏に終わりました。そして,R校長さんは,退職されました。そして,その後の校長職を引き継いだのは,教頭であったH先生でした。

 私は今でもその学校に年間数回通い続けています。H校長さんは,R校長さんの仕事を目の当たりにして,それをそのまま受け継ぎながら,さらに充実した学校経営を行っているのです。今年度もすでにこの学校を訪問する日は,2月までスケジュール化しているのです。






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