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若い教師を育てるということ
―K教務主任さんの奮闘ぶりに学ぶ―
達人教師・前田勝洋の学校行脚・その15

1 若い教師の無様な授業風景
2 見違えるほどの学級会活動の授業!
3 教務主任の渾身の「教師教育」
4 職場の中で,育てる


1 若い教師の無様な授業風景

 ここ数年,団塊の世代の方々の退職もあって,若い教師が採用されるようになってきています。職場にもどこか華やいだ雰囲気になり,明るさと元気さの風が流れているように思われます。

 しかし,外見と中身はまた違います。確かに若さは何物にも代えがたい魅力を発散しているのですが,教師としての力量は,悲惨なほど貧相で悪戦苦闘の連続です。いや悪戦苦闘しているならば,まだ果敢な挑戦といえましょうが、何をどうしたらいいのか,皆目見当がつかず,すべてが後手後手に回っている教師のなんと多いことかと思うのです。
 中には,保護者や子どもたちの信頼を得られずに,無念にもリタイアしていくケースもあります。若さだけでは,子どもや保護者の信頼を得ることができません。

 S先生も,新任教師として採用されたものの,去年の10月に私が授業参観したときには,まるで授業にならないドタバタ状態でした。3年生を担任して算数の授業をしていたのですが,教材研究も甘いうえに,授業規律も子どもたちに育っていません。板書も乱雑な上に,子どもたちを見ていません。自分勝手に授業をやっていますから,子どもたちは落ち着かず,私語や落ち着かない言動が目立ちます。

 授業後,私はかなり手厳しく「この数カ月何をしてきたのか」問いただしました。彼はただただ頭をかきながら,半泣き状態になっている始末でした。校長先生が,「S先生のいいところは,とにかく休み時間に子どもとよく遊ぶことです」ということだけが,私の記憶に残りました。

 確かに,授業は乱雑ではあったのですが,子どもたちが反発したり悪乗りしている状態にはなっていません。それでも,「子どもと遊んでいるだけでは,教師の仕事は務まらないよ」と言ったことでした。

2 見違えるほどの学級会活動の授業!

 その彼が,2年目の夏休み前に,「学級会活動の授業」を行いました。幼稚園で行った学級ボランティア活動について,これからどうしていこうか,みんなで考える授業でした。

 学級会活動の授業を公開する教師にありがちなのは,自分が授業をすることから逃げている場合が多いことです。その上,「その学級の育ち」が露骨に現れ,日頃の指導の欠陥を無様な形で表出します。「果たして彼に学級会活動の授業を行うことができるのだろうか」と私は参観前から,疑心暗鬼でした。

 おまけに,そのS先生の授業の前に,今年度新任教師として赴任した,二人の女性教師が1年生と5年生で授業をしたのですが,それがなかなかの出来栄えの授業だったのです。

 1年生の授業は,国語の授業でしたし,5年生は道徳の授業をしたのですが,「教師を演じている」ワザを身につけているのです。ほんとうに,「誰にこのような授業のやり方の手ほどきをしてもらったのですか」と問うても,「いえ,教務主任の先生の指導を受けながら,自分なりに悪戦苦闘しています」ということでした。1年生の女性教師は,45分,ほんとうに子どもたちを飽きさせることなく,集中させるために,教師の声色,小道具,テンポのよさを含めて,なかなかのものです。

 5年生の女性教師は,静かな雰囲気の授業ですが,腕白坊主の子どもたちがいるにもかかわらず,その子どもたちが素直に授業に参加しているのです。静かな落ち着きの中で,授業への集中が生み出されています。これは「演じる教師のワザ」というよりも,この教師の天性の持ち味のように思えました。

 この2人の授業を参観した後,午後からS先生が学校全員教師の参加の中で,授業を公開するのです。私は去年の算数の授業でのイメージが強烈に焼きついていたのですから,「大丈夫かな」と他人事ながら,とても心配になりました。

 ところが,授業が始まると,話し合いのテーマ説明に始って,45分の授業で全員発言をするほどの積極的な子どもの参加と,教師の「立ち止まって考える場面の設定」「話し合いの絞り込み」と適切な出方で,盛り上がった学級会活動を行って終結したのでした。

 確かに学級会活動の進め方も「指導」が行き届いていますし,何よりも子どもたちが,聴き合い語り合いしています。メモを見て形式的に読み上げて提案したり意見を言ったりする姿は皆無です。

 S先生も,子どもたちをよく見ています。去年の授業のアイコンタクトしない振る舞いや子どもの声を聴き届けない姿とは大違いです。梅雨の蒸し暑い授業日であることを忘れさせる授業の光景でした。

3 教務主任の渾身の「教師教育」

 S先生が,初任者として赴任してきたときに,その初任者指導の立場にあったのが,教務主任のK先生でした。K先生は女性の教務主任で,S先生の赴任と時を同じくして,教務主任になったばかりでした。

 K先生は,今回の授業が終わった後,こう言われました。
「私はこのS先生の初任者指導を受け持ったのですが,何をどうやったら,どこまでやったらいいのかもわからず,一応の指導をしたものの,彼の学級経営や授業づくりに浸透して行くような指導ができませんでした」「だから,去年,前田先生がS先生を厳しく叱咤激励されるのを横で聴きながら,前田先生の指導のことばは,そのまま私の胸に焼け火箸を突き刺された思いでした」

 それからのK教務主任さんは,S先生の学級に深く入り込み,授業参観するだけではなく,具体的に授業の場面に入って,「S先生,そのやり方では子どもたちはわからないかもしれないから,もう一度やり直しましょう」と,直接その場での指導をしていったのです。

 発言の仕方については,S先生の授業に参加しながら,学級の中でいい発言をした子どもをほめたたえ,その子どもの「発言の仕方」をまねることを他の子どもたちに勧めました。「教室に掲示して,4の2の発言の仕方として活用できるようにするといいよ」とK教務主任さんが,みなに話しました。
 「4の2の発言のワザ」のレパートリーは,こうして少しずつ増えて行きました。

 S先生は,のんびり屋です。K先生のいろんな面での指導助言を聴いていても,右から左へスル―することばかり。K先生は,「もうほんとうにしょうがないのだから」と腹を立てながらも,板書が下手だからと一緒に書道塾に通いだしてみたり,通知表の文章がまるで文になっていないのにしびれを切らして,K先生の横に座らせて,一字一字書き直しをさせてみたりしたのでした。

 彼の文章力は,文章の添削だけでは伸びてこないので、「天声人語」「中日春秋」という新聞の文章を書き写すこともさせました。

 とくに授業では,「子どもを見ていない」「子どもの言ったことが聴けていない」ことから,授業記録をもとにしての「授業再現」をしながら,一つ一つ身にしみ込ませるように付きっきりでやったのでした。それを何度も何度も,ほんとうに根気のいることでしたが,K先生は自分の務めだと思ってやったのでした。
 また校外での先進校での実際の授業を参観する機会があれば,S先生を連れていき,目の当たりに「いい授業から学ぶ」チャンスを与えていったのでした。

4 職場の中で,育てる

 もちろん,S先生を指導するのは,K教務主任さんだけがやったわけではありません。

 学年主任さんには,毎日の学級運営の「いろは」を一つ一つ教えて指示をしてもらいました。校長先生も,意識して彼の教室に足を運び,授業づくりに参画していってくださったのです。各教科の主任さん方も,積極的に手ほどきの授業公開をして,それぞれの教科の授業のやり方を具体的に示してくださったのです。……ほんとうに考えようによっては,S先生はみんなに厳しくともかわいがられての成長があったのでした。

 K先生は,「この半年間,私も教師の仕事をするということは,どういうことを身につけていくことか,考えさせられました」「こんなこともわかっていないのか!といら立つこともありましたが,自分の子ども以上に手をかけ,時間を費やして・・・・なんとかきょうの学級会活動の授業のできる状態になってきました」「でもまだまだなんですね。私もほんとうに厳しすぎるかな? と思うこともたびたびありましたが,今はS先生も職場の中で居場所を見つけてがんばることができるようになってきました」と安堵の笑みをたたえながら,語られたのでした。 

 S先生はK先生が怖かったと言います。しかし「これでもか」というほどのK先生の指導に「自分は見捨てられていない」という幸せを感じることができたのでした。今多くの職場は,若い教師をどう育て上げていくかが問われています。大事な大きな岐路に学校現場は置かれていると言えましょう。

 学校には,四役と呼ばれる校長,教頭,教務主任,校務主任がいます。それらの人たちが,その学校の経営を動かすリーダーになるのです。

 ところが,問題は,今やこの四役の仕事の大半が,さまざまな指示文書や通達文書への応対,PTAへのかかわり,対外的なさまざまな仕事で,忙殺されているのです。それで肝心な学校経営の軸とも言える「学級づくり」や「授業づくり」の指導をすることがおろそかになります。

 私は,学校の営業は「授業だ」と言い続けていますが,それは現実の学校という職場では,よほど意識して行わない限り進みません。

 K教務主任さんは,S先生につきっきりばかりでは,他の仕事が遅れると承知しながらも,あえてこだわってS先生への指導を続けたのでした。

 私はつくづく思います。このようなK教務主任さんのような献身的な指導をする存在こそが,若き教師たちを育て,学校経営を動かしていくものだと。

 今やそういう「指導」をする四役の教師が少なくなってきているだけに,K教務主任さんの粘り強い若い教師とのかかわりは,とても新鮮な尊いものに感じたことでした。

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