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授業名人活用事業のアドバイザーを委嘱されて
―前さの窓(前田勝洋学校行脚記)その7―

1 授業名人活用事業
2 「校長先生がまず陣頭指揮を執るべきです」
3 校長さんの学校づくりへの愛着が高まる
4 引き継がれて行く管理職の指導姿勢
5 教科の壁を越えて話し合いが行なわれる協議会
6 「N中授業実践10カ条」と学校経営の当事者意識


あけまして,おめでとうございます。

 新しい年が,どちらさまにも,佳き年になりますようにご祈念いたします。温かさと優しさの溢れた話題の多いことを願うばかりです。

 さて,この連載も新しい年になって,心新たに綴っていきたいと思います。ご愛読いただくことを歓びとして,がんばります。

1 授業名人活用事業

 数年前,県教委主管の事業で「授業名人活用事業」なるものが,行われていました。退職者の中で,比較的授業に関心を持っていた人を再度「授業づくりのアドバイザーとしてお願いしたい」という趣旨で始まったのです。

 年間30回程度,その指定を受けた学校に訪問して授業指導,学級経営を中心に教師の相談・指導に当たるという事業です。団塊の世代が学校現場から去って,新たな新任教師を大量に採用することにもあわせて,授業技術や学級経営のノウハウを学ぶ機会にするものです。私もある中学校から,その趣旨に則ってアドバイザーとして招請されました。

 その中学校は学年3クラスの中学校で,いえば,比較的小規模に属する学校でしょうか。

 生徒たちは落ち着いている雰囲気でした。あいさつもしっかりできるし,言葉遣いにも落ち着きが感じられます。私はT校長先生に「先生,落ち着いて,いい雰囲気ですね」と申し上げました。「いやあ,実はこの学校の生徒は,農村部で素朴ですが,不登校が多いのですよ」「それに,教師の層が年齢層の高い者と,まだ新任同然の者と二極化していて,なかなかバランスが悪いのです」と,その実情を語ってくれました。

 T校長先生と話していて痛感したことは,生徒の名前を実によく知っていることでした。そのことを私がほめると,「まあ朝の登校でのあいさつ活動や授業中にも少しずつ教室に顔を出します」と謙遜して言われます。「私は校長先生が,生徒の名前をスラスラ言える人をあまり知りません」と私。T校長先生は,顔を赤らめながら,「何しろ授業や学級経営の粗雑さが目立ちます。そんなことで先生にお世話になって勉強を教師たちにしてもらいたいと思います」と言われました。

2 「校長先生がまず陣頭指揮を執るべきです」

 こういう事業の指定を学校が受けると,とかくアドバイザーの者に,「指導を丸投げ」することが,しばしば見られます。学校に委嘱された研究指定でも,校長をはじめ管理職は,その指導にほとんどタッチすることなく,アドバイザー(講師)任せになっている学校が多々見受けられます。私はそのことにかなりの疑義を感じていました。その学校を背負っている管理職こそが,その学校の教師たちと結束して,学校の経営にあたるべきだと言うことです。

 企業でも,どんな仕事でもトップに立つ人が,その事業のノウハウを熟知して,指導監督責任を全うするのではないでしょうか。

 ところが,学校は不思議なところで,研究指定を受けたり,このような名人事業の委嘱を受けたりすると,「アドバイザー(講師)を選定すること」までが,管理職の仕事で,あとはお任せ主義になっているのです。

 私はT校長に,その話をしました。「校長先生には,先生の願いやこの学校にかける夢があると思います。それを先生の力でやってほしいと思います。私はその後方に控えた応援部隊です」と。それに対してT校長さんは,びっくりしたような顔で「いや,先生は授業や学級経営の識見が深くて,前田先生に采配をふるってほしいと思っています」と言われました。私は「お言葉を返すようですが,この学校は,T校長先生の学校です。だから先生がまず陣頭指揮を執るべきです。それで私はサポートすることに尽力しますから」と話したのです。

 「前田先生のお言葉はよくわかりますが,何せ私は授業のことも学級経営のこともしっかり勉強してこなかったので……」とT校長先生は話されます。押し問答のようなことになりました。

 私は「T校長先生,授業技術や学級経営にはそれなりにノウハウはあるでしょうね。でももっと大事なことは,『しろうとの目』ですよ。しろうとの目でおかしいことだなと思うことは,やっぱりおかしいのです。それは生徒目線であり,保護者目線です。数学は専門外だとか体育は苦手だ,ではなくて,そういう専門外ではあっても,その『しろうと目線』で見て,変だなと思ったら,生徒も保護者も変だなと思っていると考えていいと思います。だから,思い切って先生の采配でやってみてください」と申し上げました。そうやって出発したこの学校とのかかわりでした。

3 校長さんの学校づくりへの愛着が高まる

 「前田先生,校長先生が張り切って見えますから,私たちもボヤボヤしておれません。」教頭先生の話です。「校長先生は,今では授業を毎日毎日,時間を見つけて参観に行かれます。」「それだけではなくて,職員室でも教職員と実に雑談や相談事,あるいは教師たちに校長さんが教えてもらっているのですね。なんだか学校がとっても心地よい緊張感と活気に満ちてきました」と。私はその話を行くたびに聴くようになる度合いが高まることを,たいへんうれしく思いました。

 夏休みのことです。2学期以降の授業の構想を話し合う時に,「前田先生,先生方の構想について私がまず切り出しの話をさせてもらいます。前田先生には,私の足らないことや間違いがあったら訂正してください」とT校長先生が言われたのです。「先生,それですよ,そうやってください」と私は絶賛しました。

 夏休みに現職教育研修で2学期以降の授業の勉強をするときに,校長さんは,教頭さん,教務主任さんにも同席してもらって,授業者当人の教師と懇談するスタイルをとったのです。
 校長さんの手持ちの資料には真っ赤になって書き込みがしてあります。それだけでT校長さんは,どれほど熱心に勉強されているかがわかります。符箋もいっぱいです。

 T校長さんは,「私はなんだか先生方と一緒に授業を創っていくおもしろさを感じてきました。日頃授業を参観していても,自分ならばどうするとハラハラしながら,見ているのですね。私はここにきて,T校長さんの「学校づくりへの愛着」が急速に高まってきたことを実感として思ったことでした。うれしいアドバイザーの仕事でした。

4 同僚による授業参観の日常化――「授業参加」する教師たち

 私は,その中学校へいまだに招かれて行っています。あの授業名人事業が行われてから,かれこれ5年の歳月が流れています。T校長さんもすでに退職されました。

 しかし,T校長先生の播かれたタネがしっかりと芽吹いているのです。今では,教頭さんも教務主任さんも新しく赴任してこられた校長さんも,同じように「指導性」を発揮されているのです。

 何よりも,授業だけではなくて,教頭さんや教務主任さんから,その教師の授業でのよさや問題点が語られるのです。それはふだんから,教師たちとかかわっていないと見抜けないことです。当たり前のことと言えば当たり前のことですが,職場で働く教師たちの一番の理解者が,その学校の四役であることは,とても重要なリーダーシップの発揮の視点です。

 「U先生は,ずいぶん授業に関心を持って動くことができるようになってきています。ふだんから,授業に工夫をこらそうとしているのです。だから生徒たちも動きが違います」とうれしそうに語る教頭先生の目線が,頼もしい限りです。

 あの夏休みに2学期の授業構想についてT校長さんが始められたスタイルは維持されているばかりか,今では,私がお邪魔したときに,まずは,教頭先生がその授業についての口火を切って語られます。その話しぶりは決して高圧的であるとか,上から目線ではありません。

 むしろ気さくな語り口で,それだからこそ協議会も和気あいあいになります。大笑いが起きたり,率直な刺激的な発言も飛び出したり……ほんとうに学校の職場の雰囲気が変わってきています。

 「校長先生,この学校では,生産活動でいえば,拡大再生産体制になっていますよ。講師である私に丸投げされていません。むしろ私は脇役ですから。それがいいのです。講師任せの動かし方は,学校としては,その講師がいないときは,切磋琢磨になりません。それでは縮小再生産になります」とお話したことでした。

5 教科の壁を越えて話し合いが行なわれる協議会

 中学校の授業協議会ですと,とかく他教科の教師は言いたいことがあっても,言いません。他教科の指導の仕方に口出しすることは,タブーになっているのです。この中学校もはじめの頃はそんな空気が流れていました。でも今は違います。

 誰かが授業公開をして,協議会を行うと,率先して他教科の教師が発言します。その発言が実に新鮮です。ある教師は,「私の授業では動こうとしていなかったO君が,あんなにも活発な表情をしているとは驚きました。逆にMさんがうつむき加減でアイコンタクトができていないことは気になりました」と語ります。

 「前の学年のときは,まったくだらしない振る舞いの目立ったH君が,きょうは溌剌として実験に参加していたのには驚きました。あの子があんなに目がキラキラしているなんてうれしいですね」と前年度との比較で生徒の成長を語る姿には,学校全体で生徒を育てていく雰囲気を強く感じるようになりました。

 それにしても,毎年毎年,多くの教師たちが異動で変わる学校体制を維持していくことは,なかなか難しいことです。教務主任のS先生は,これまでこの学校で,みんなで確認してきた授業のノウハウや学習規律が,なし崩しになっていくことを恐れていました。

 そこでS先生は,職場のみんなに図って「N中授業実践10カ条」というシンプルな形で,みんなの授業実践の共通認識になる提言をしたのでした。それは,どの教科でも当てはまることです。そのことをみんなで確認しながら,行うのです。

6 「N中授業実践10カ条」と学校経営の当事者意識

 その10カ条には,「授業を始める際は5分以内に離陸する」「アイコンタクトをする」「授業には具体的な実験,資料,絵などの用意をひとつはする」「授業の終わり方を意識する」「ベルタイマーの活用を図る」などなど,どこの学校でも行っているようなことでありながら,なかなか定着しないことが列記されています。

 授業公開の協議会ではいつもその10カ条が確認され,お互いの意識をつないでの語り合いになっていくのでした。

 そして,今年度は,その10カ条の内で,それぞれの教師が,どの条文をとくに意識して日常的な授業実践をすすめるか,決めることにしたのです。ほんとうは10カ条全部に力を入れてやるべきです。しかし,そういうパーフェクトな姿勢での取り組みは,どれも中途半端にする危険性もあります。

 そんなことで,この学校では「自分にとって大事な視点を三つ,この10カ条の中から選んで意識して取り組もう」となりました。N中学校では,今,行きつ戻りつしながらも,この10カ条がみんなの意識に上り,学校経営にみんなで当事者意識になって取り組もうとする機運が高まってきています。






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